競馬本の紹介、第2回は山口瞳さんの「草競馬流浪記」です。
中央競馬にはない地方競馬ならではの楽しさを求めて、全国津々浦々を編集者とともに旅します。
地方のホテルや温泉宿に泊まって、競馬を打ち、その土地土地の旨いものを食べて飲んでという紀行文です。
競馬場のある町は独特の佇まいがあります。
庶民的で旨い食い物があり、さびれた温泉があり、昔きれいだった女将がいて、それを追いかけるどうしようもない男がいる。
競馬と旅の醍醐味が詰まった一冊です。
読めば誰もが、真似したくなるはず。
もしかしたら、実践あるのみで、さっそく次の休みに地方競馬に足を運ぶ人がいるかもしれませんね。
競馬ファンはもちろん、競馬に全く興味がない人にもぜひ読んでもらいたい本です。
■全国27か所の地方競馬場をめぐる旅
北は北海道、南は九州まで、今はすでに廃止されている競馬場も含めて全部で27か所をめぐる旅です。
しかし、このうち今残っているのは15か所です。
本書に出てくる競馬場 取り消し線は2021.1現在廃止されている競馬場
(北海道)旭川競馬場、帯広競馬場、北見競馬場、岩見沢競馬場
(岩手)水沢競馬場、盛岡競馬場
(山形)上山競馬場
(新潟)三条競馬場
(栃木)宇都宮競馬場、足利競馬場
(首都圏)川崎競馬場、船橋競馬場、大井競馬場、浦和競馬場
(群馬)高崎競馬場
(石川)金沢競馬場
(愛知)名古屋競馬場
(岐阜)笠松競馬場
(和歌山)紀三井寺競馬場
(兵庫)園田競馬場、姫路競馬場
(広島)福山競馬場
(島根)益田競馬場
(高知)高知競馬場
(佐賀)佐賀競馬場
(熊本)荒尾競馬場
(大分)中津競馬場
コロナ禍において、様々な娯楽が制限を受ける中、いち早くオンライン化を進めてきていた競馬が今見直されています。
中央競馬だけでなく地方競馬も、馬券も観戦もデジタル化され、つい先日は高知競馬が一日当たり歴代最高売上を記録したというニュースが話題になりました。
もちろん、単に時の勢いに乗じただけでなく、競馬場の皆さんが考えうるありとあらゆる工夫と努力を重ねた結果であることは言うまでもありません。
この本が上梓されたころにあった競馬場の半分近くが廃止され、つい最近まで衰退の一途を辿っていた地方競馬に復活の兆しが見えています。
山口さんがめぐった競馬場はどこも魅力にあふれています。
読めばきっと訪れたくなる。
だからこそ、今残っている15か所の地方競馬場はぜひ残ってほしいと願わずにいられませんし、馬券買って応援したいですね。
■当時の現地の空気を感じさせてくれる
地方競馬も馬券をネットで買えるようになり、中継も観ることができるようになってはいますが、現地の空気までは感じ取ることができません。
この本が書かれた時代と今では違うのかもしれません。
しかし、少なくとも私がよく知る佐賀競馬場については、建物などの外見は変わったものの、そこに集う人々や雰囲気というものは今も大きく変わっていないと感じます。
また、昭和の終わりに出された本だけに、今では見かけないものや意外なことが記されています。
例えば笠松競馬場の章では、“アンカツ”こと安藤勝己さんが「おぼこい(可愛い)美少年」として登場します。
園田競馬場では、管理事務所長がノミ屋(違法な私設の馬券投票所)を捕まえた話がでてきます。
私が競馬を始めたころは、近くの喫茶店が土日はそういう場に変わったり、場外馬券場の近くを歩いていると「うちから買わんか」と声をかけられたりしたものです。
八百長の話なんかも、普通の話のように出てきます。
もちろん、競馬場の外、旅館やホテル、居酒屋なども昭和の臭いを感じさせてくれるものばかり。
今よりも時間がゆっくり流れていて、登場する人々には根拠のない余裕があり、どこか懐かしく愛すべき人物ばかり。
旅打ち本の決定版といってもいいでしょう。ぜひ読んでみてください。