競馬本の紹介、第12回は杉本清さんの「これが夢に見た栄光のゴールだ 名実況でつづる永遠の名馬たち」です。
この本は元関西テレビの杉本清さんが、自信の実況名語録とともに優駿たちへの熱い想いを語る本です。
杉本清さんのことを今の若い人たちは果たしてどこまでご存じでしょうか。
奈良県大和高田市生まれ。関西学院大学在学中にアルバイトとして関西テレビへ。
いくつかの部署でアルバイトを経験し、アナウンサー試験を受験。
合格して正社員に登用され、長きにわたり中央競馬の競馬実況を担当されました。
その独特の実況は「杉本節」と呼ばれました。
レース全体が一つの物語になり、美しい詩にすら思えてくるのです。
もちろん、そこに辿り着くまでにはそれまでの実況の常識を覆すことにチャレンジし、批判され、それでもこだわって続けてこられた道程があります。
しかし、これらを苦労して一生懸命に・・・というのではなく、本人は飄々として受け流して我が道をいく、笑い話に変えて、結局は周りを認めさせていった、私にはそのように映りました。
今ではどうかわかりませんが、一時期、関西テレビの若手アナウンサーに「どういうアナウンサーになりたいか」聞くと杉本さんの名前ばかりが上がるということがあったようです。
しゃべりの上手下手ではなく、一番いいアナウンサー生活をしているから、というのがその理由だそうで、土日競馬場へ行って、月火休んで、水木ゴルフに行って、金曜日の昼からしか会社に出てこない。憧れの生活だと。
だから杉本さん、ということらしいです。
プロフェッショナルであり、自由人であり、破天荒な会社員でもあったということでしょうね。
本書ではその杉本さん自身が、思い出に残る名馬と実況、そしてその舞台裏について語ってくれます。
一つご紹介してみたいと思います。
例えば、メジロマックイーンVSトウカイテイオー世紀の対決と言われた平成4年の天皇賞・春の実況。
当時まだG1ではなく天皇賞春の前哨戦だった大阪杯にケガから復帰したトウカイテイオーが出てきたときの実況と合わせてご覧ください。
【平成4年・大阪杯】
「メジロマックイーンよ見ているか、これがトウカイテイオーだ」
「トウカイテイオーだ、これで天皇賞が楽しみ。
メジロマックイーンよ、見たか、トウカイテイオーが復活した」
【平成4年・天皇賞春】
「メジロマックイーン、どんなもんだい。
メジロマックイーン、どんなもんだいといったところ。
恐れ入ったと言うトウカイテイオーは4着か5着」
このように、杉本さんの実況は、そのレース単体ではなく、前哨戦も含めたトータルでの物語に仕立て上げてくれるのです。
点ではなく線の実況。
今周りを見渡してもそういう実況ができる人は見当たりません。
もちろん、競馬自体がこの当時とは変わってきているというのも大きいですね。
前哨戦を使わずにぶっつけでG1に臨んで勝ってしまいます。
効率的ですけども、ファンからすると勝利に至るプロセスが見えづらいんですよね。
昔の競馬は、本番でのガチンコ勝負を見据えて、本番で本命に推されるであろう馬も、その馬を何とか逆転しようとする馬も、みんな前哨戦に出てきて戦って本番に臨んみました。
その馬独自の戦法をもち、多少適性が合わなくても格の高いレースには出走していました。
そういう、大レースに至る各馬のプロセスが非常に見えやすかったというのも杉本さんの実況が光り輝いた要因の一つだと思います。
競馬が色んな意味で再び勢いを取り戻しつつある今だからこそ、さらにそれを後押しするような実況アナウンサーが出てくることを願ってやみません。
ちょっと横道にそれましたが、この本を読むと杉本節をもっと聞きたくなると思います。
YOUTUBEで「杉本清」と検索すればたくさん出てきます。
実は、私が大好きな実況はこの本には紹介されていません。
杉本さんと言えば「私の夢は・・」の宝塚記念が有名ですが、私にとって杉本さんと言えばやっぱり菊花賞。
杉本さんの名実況ではあまり挙げられることは無いですが、ダンスインザダークの菊花賞が大好きなんです。
この実況を私は大学時代に、不謹慎にも部活の公式戦の最中にベンチで聴いていたんですね。
4コーナーでは
「ダンスインザダークは馬ごみでもがいている!割ってこれるかダンスインザダーク!」
「ダンス、ピンチか、ダンス、ピンチか!」
と実況され、
直線に入ってもしばらくダンスインザダークの名前が出てこなかったので、ああダンスはダメだったかと思っていたんです。
そしたらゴール直前、「おぉっと!ダンスきた!」って。
「もの凄い脚だ、ダンスインザダーク!」
この時に全身鳥肌ですよ、ぞわぞわぁ~って。
「ダービーの無念を晴らした!一気にダービーの無念を晴らしたダンスインザダーク!」
「武豊、珍しくガッツポーズ!やった!やった!やった!」
あれはシビれる実況でした。今でも聴くと鳥肌が立つんですよ。
他にもセイウンスカイの「今日の京都競馬場とおんなじ!青空!」といってしばらく沈黙するのも、非常に味があっていいですよ。
・・と語り出したら止まりませんのでこの辺でやめておきますね。
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