夕ぐれ食堂競馬みち

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読む競馬(6)『星になった名馬たち』渡辺敬一郎責任監修

 

競馬本の紹介、第6回は渡辺敬一郎さん責任監修の「星になった名馬たち」です。

 

-ファンを歓喜させる鮮やかな勝利

-種牡馬や繁殖牝馬となって血を分けた子供たちの大活躍

-万馬券を的中させた喜び

・・そういう華やかな場面だけが競馬じゃありません。

 

レース中の故障による予後不良、牧場の火事、突然の病気・・・悲しい運命を辿った名馬たちがいます。

その関係者たちだけが知っている隠された真実を緻密な取材に基づきまとめ伝えています。

 

■私を競馬の世界にいざなってくれたライスシャワー

 

私が競馬を始めたのは1995年宝塚記念からです。

その年の4月に田舎から関西の大学に出てきた私は、部活の先輩の勧めで初めて馬券を買いました。

 

当時、大学生が授業そっちのけで読んでいた関西エリアのタウン情報誌「関西ウォーカー」に宝塚記念の特集が組まれていて、それを参考にダンツシアトルの単勝を買いました。

結果から言うと馬券はビギナーズラックで的中。

これで競馬にはまりました・・・・ではなく、私が競馬にはまったのはそのレースで故障を発生したライスシャワーがきっかけでした。

 

レース直後は馬券が当たった喜びだけでしたが、後にライスシャワーが予後不良となったことを知りショックを受けたのです。

そんなに脆いのか、なぜちょっと転んだだけで(実際は左第一指関節開放脱臼)、骨折しただけで死なせなきゃならないんだ、と。

 

そこからサラブレッドという生き物に興味をもち、それに携わる関係者に興味をもち、人間とサラブレッドが織り成すドラマに共感していきました。

私の、馬券だけが競馬の楽しみではない、という強い思いの原点がここにあります。

 

まあ、そんな私の個人的な話はさておき、この本です。

 

■42頭の星になった名馬たち

この本には実に42頭の星になった名馬たちが出てきます。

そのうち15頭については複数の関係者からのインタビューをもとに深く紹介されています。

 

①サイレンススズカ

②ホクトベガ

③テンポイント

④ライスシャワー

⑤サンエイサンキュー

⑥マティリアル

⑦サクラスターオー

⑧シャダイソフィア

⑨ワンダーパフューム

⑩キシュウローレル

⑪ハクホオショウ

⑫ハマノパレード

⑬ナスノコトブキ

⑭キーストン

⑮サチカゼ

 

 (そのほか)

ナリタブライアン、ラフィアン、シーバード、キングスポイント、グリーングラス、マルゼンスキー、カリブソング、ミホノブルボン、サザンフィーバー、グレートタイタン、ファンタスト、ステートジャガー、シャーガー、ロングヒエン、オグリキャップ、ヒカリデュール、テスコガビー、カネユタカオー、タカイホーマー、タニノムーティエ、トキノミノル、メジロカンゲツ、ミハルカス、ヤシマナショナル、ヒシマサル、ハイセイコー、エガオヲミセテ

 

皆さんの心の中にもずっと残っている馬がこの中にもいるのではないでしょうか。

関係者の方々のそれぞれの馬に対するあふれる愛情や、当時の苦悩、申し訳なかったという悔恨の念などがつづられています。

 

こういった馬については、たまに競馬番組で取り扱われるとしてもせいぜい当時の主戦騎手の方のコメント程度ですよね。

この本を読めば、調教師や一番身近で面倒を見ていた厩務員さんの思いも知ることができます。

 

ここではひとつだけ、ご紹介したいと思います。

 

■大欅の向こう側 サイレンススズカ

今でもファンの多いサイレンススズカ。

天皇賞の第4コーナー、東京競馬場の大欅を過ぎたあたりのあの光景は今でも目に焼き付いています。

 

本の中では、橋田調教師、厩務員の加茂さん、武豊騎手のインタビューが掲載されているのですが、一番心に迫るものがあった加茂さんの言葉を少しご紹介します。

 

加茂力厩務員

―あの馬、そうやな、すごく寂しがり屋だったと思うんや。わしが厩舎にいるときでも、自分の馬房からみえないと、捜すようなそぶりみせたよ。

 

―馬房でグルグル回る癖も、寂しいからやないかな。寂しくてどうしようもなくて、回っているうちに、癖がついちゃったみたいやね。
そのまわりのほとんどが左回りなんで、よくレースも左回りの方がいいといわれたんやが、実際に乗り役さんに聞いてみても、そうらしいんや。

 

-急いで治療場へ駆けつけたんやけど、サイレンスはぐっしょり汗をかいて・・・。もう脚が痛くてじっとしてられんらしく、ぐるぐる回り、時々痛い方の脚を振って・・・。
そりゃもう、かわいそうで見てられんかった。   

          

-天皇賞レースの当日、帰り際、テキが「加茂さん、新幹線で一緒に帰ろうか」言うてくれたんやけど。そうしても楽になれないからって、断ったんや。
それで、やはり馬運車でサイレンスと一緒に連れてきたもう1頭の馬と帰ったんよ。途中、車の中でその馬の隣がぽっかり空いているんで、ああサイレンススズカはもういないんや、まあ寂しくなるなと思ったんや・・・。

 

 

いかがですか。

これを読んでいるだけでも、サイレンススズカの知られざる一面が垣間見られます。

もちろん天皇賞当日の壮絶な現場の様子は読んでいて心が苦しくなります。

 

でも、それも含めて競馬です。

不幸な事故で命を落とさないで欲しい、まずは全馬無事にゴールを・・・そう祈らずにはいられません。

 

この本にはこのようなドラマが42頭分詰まっています。

興味のある方はぜひご読んでみてください。

 

 

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