競馬本の紹介、第3回は寺山修司さんの「勇者の故郷」です。
寺山修司を猛烈に好きだという人は山ほどいると思います。
カリスマ性を備えた歌人であり、劇作家であり、俳優であり、映画監督であり。
とにかくマルチに活躍した人ですよね。
寺山修司そのものが好きで、寺山修司の作品を読むようになり、結果としてこの「勇者の故郷」に辿り着いた。
そういう人が多いと思います。
ただ、私は「競馬」が先にあり、競馬の本を次から次に読み漁っていくなかで、この本に出会いました。
寺山修司は競馬に関する本をいくつか書いています。
そのどれもが、スタイリッシュで都会的です。
一方で人間の汚い部分や弱い部分をこれでもかというほど突き付けてきます。
こん本は、勇者の故郷/ロンググッドバイー競馬短篇集/サラトガ、わが愛の3つが収録されています。
■「優駿」の救いようがない版!?
表題作でもある「勇者の故郷」は、とある牧場に生まれてきた一頭のサラブレッド「ミカヅキ」と、牧場主の息子謙作を中心とした物語。
ミカヅキが日本ダービーに出走するまでの期間の謙作の生きざまを描いています。
この点だけ踏まえると、第1回でご紹介した「優駿」と同じアウトライン。
しかし、物語は全体的に物悲しい空気に包まれています。
ミカヅキが生まれた日、謙作の姉が乱暴を受けた末死んでしまうところから物語がスタートするのです。
その後謙作は、ジョッキーを目指します。
ダービーでミカヅキに乗るためです。
しかし減量に苦しみ、養成所の教官からは「おまえはまだまだ大きくなる」と言われ、いくら頑張っても肥えていく不安を忘れるため「無断外出」するようになります。
そこから謙作の人生は破滅に向かって走り出していきます。
他にも、この物語には、ミカヅキとダービーを争うライバルの馬も登場します。
そして、その馬達にまつわる謙作以外の人たちの物語も出てきます。
これがまたどうしようもない人間ばかりです。
楽しい、うれしい、怖い、悲しい、さみしい。
そんないろんな感情がすべて詰まったのが「優駿」だとすると、この「勇者の故郷」は楽しさや嬉しさはほとんどなく、最後はやるせなさが残ります。
こう書くと、本当におススメの本なの?
という印象を持たれるかもしれません。
しかし、そこは寺山修司。
詩、なんですよね。
どこまでも、詩。
悲しい物語なんですけど、読み終わって一息つくころには、「ああ、何だかかっこいい詩を読んだな」という気持ちになるのです。
そして、登場人物や馬たちがいとおしくなるのです。
ぜひ読んでみてください。